夜22時半、ファミマのレジ前
世田谷のマンションまであと徒歩4分のところで、スマホを開いたらPairsの通知が来ていた。
「お顔の写真を載せていただけますか?気になっているので」
手の中にはサラダチキン(税込215円)と缶チューハイのレモン9%。レジの列は3人待ち。その短い時間で、去年8ヶ月かけて積み上げた疲弊感がすうっと戻ってきた。
送ってきたのは、3日間やりとりが続いていた34歳の男性だった。仕事は「メーカー営業」、会話のテンポは悪くなかった。でも、この1行を読んだ瞬間、返信する気持ちが9割消えた。
去年、3つのアプリを試した。Pairs、タップル、with。合計8ヶ月、課金総額は2万2千円を超えていた。全滅の理由は様々だったが、振り返ると「顔写真を早い段階で求められるプレッシャー」が、毎回じわじわと疲弊を積み上げていた。IT企業のマーケ部で数字を追う平日、22時を回って帰宅して、シャワーを浴びながら「今日こそちゃんとプロフィールを整えよう」と思うのに、顔写真のアップロード画面で毎回指が止まった。
顔写真を載せたくない。その気持ちに、説明が必要なのか、とずっと思っていた。
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「顔写真がないと出会えない」は本当か
マッチングアプリを始めるとき、ほぼ全員が「顔写真を登録するのが当たり前」と思い込んでいる。実際、多くのサービスの登録画面は「まず写真を追加しましょう」から始まり、写真がないと「マッチング率が○%下がります」という警告まで出る。
でも、これは本当に正しいのか。
顔写真を載せたくない理由は人によって違う。職場の同僚にバレたくない。SNSで特定されたくない。外見よりも内面で判断してほしい。自分の容姿に自信がない。どれも、「不誠実」でも「怪しい」でもない。現実的で、至極まともな不安だ。
「顔を見せない=誠実じゃない」という等式は、だれが作ったのか。アプリ運営側のコンバージョン設計と、外見フィルタリングに慣れたユーザーの習慣が合わさって生まれた、ひとつの思い込みに過ぎない。
顔写真を最初から載せないことと、「ちゃんと付き合いたい」という意思は、まったく矛盾しない。
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写真なしで始めた1ヶ月の記録
去年の4月、思い切って顔写真なしでOmiaiに再登録した。
Omiaiは写真なしでも登録できる。マッチング率は下がる。それは最初からわかっていた。受け入れた上で始めた。
1ヶ月の記録を正直に書く。
全員が写真を求めてきた。当然と言えば当然だ。「顔を見たい」という感情は否定できない。
ただ、ここで重要なことに気づいた。写真を求めてくる人間には2種類いる。「会う前の確認として求める人」と、「写真のやりとり自体を目的にしている人」だ。
前者は、丁寧に説明すれば待ってくれる。「もう少し話してから、会う前に交換できたら嬉しいです」と送ると、「わかりました、焦らせてすみません」と返ってきた。後者は、同じ文章を送ったら返信が止まった。
つまり、顔写真なしで始めることは、最初のやりとりの段階でスクリーニングが自動的にかかるという意味がある。会ってから「なんか違う」と感じる消耗を、前倒しで省ける。
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顔を見せずに「自分」を伝える4つの方法
顔写真を載せないなら、その代わりに何を載せるか。ここが戦略の核心だ。
後ろ姿・横顔の写真
正面顔でなくても、「存在感」は伝わる。海に向かって歩く後ろ姿、カフェの窓際で本を読む横顔、夜景をバックにしたシルエット。スタイルの輪郭も、顔と同じくらいの情報量がある。「顔が見えない」と不満を言う人もいるが、「雰囲気が好きです」と送ってくる人もいる。後者の方が、最初の会話の温度が高い。
生活の断片を撮る
「自分」という人間の日常の切り取りは、顔写真以上に「その人らしさ」を伝えることがある。休日に行った美術館で買ったポストカード、週末に挑戦したバスクチーズケーズ(失敗作含め)、読んでいる本の背表紙。「こんな生活をしている人と話してみたい」という感情は、顔写真1枚では生まれない。
プロフィール文の密度を上げる
これが最重要だ。顔写真がない分、文章で取り戻す必要がある。「よろしくお願いします」で終わるプロフィールと、「世田谷でひとり暮らし4年目。仕事はITのマーケで毎日数字を追ってる。平日夜はほぼ22時帰宅で、外食する気力がないから帰り道のファミマがほぼ食堂になってる。週末は朝11時まで寝て、Netflixで海外ドラマを深夜まで見るのが現在の楽しみ。そういう普通の毎日の中で、ちゃんと話せる人に会いたい」では、届く人がまったく違う。後者には「俺も全く同じです笑」と言える人が来る。
マッチング後に音声メッセージを送る
Pairsやwithには音声メッセージ機能がある。マッチング後に「はじめまして、よろしくお願いします」と10秒でも声を送ると、「顔が見えない不安」を大幅に緩和できる。声のトーンと話し方は、顔写真と同じかそれ以上に「人となり」を伝える。これを送ったマッチングは、返信率が体感で上がった。
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アプリごとに「顔写真の重み」はまったく違う
すべてのマッチングアプリが、顔写真を同じ重みで扱っているわけではない。
with(ウィズ)
withの特徴は、性格診断と価値観マッチングに比重を置いている点だ。プロフィールには「外向的/内向的」「計画派/感覚派」などの性格タグが並び、写真よりも「相性スコア」を参考にする文化がある。顔写真を最初に出したくない場合、この「内面先行」の雰囲気は向いている。20代〜30代前半のユーザーが多く、「外見よりも話が合う人を探している」層の密度が他のアプリより高い印象だ。最初の一歩として顔写真なしで試すなら、withが最もストレスが少ない。
Pairs(ペアーズ)
国内最大規模の会員数。それはつまり、「顔写真なしでも、気の合う人が見つかる確率が母数として高い」ということでもある。Pairsにはコミュニティ機能があり、共通の趣味や価値観でつながれる設計だ。「読書コミュニティ」「映画好きコミュニティ」に参加して、共通のテーマで発言を続けていると、プロフィール写真の前に「この人、話せそう」という印象を先に作れる。会員数の厚みがあるから、顔写真なしのスタートでもコミュニティ経由でやりとりが生まれやすい。本気で出会いを探している段階なら、Pairsの規模と機能の組み合わせは強い。
Omiai(オミアイ)
3つの中では最も「誠実な交際」を求める層が多い。プロフィールの記入項目が細かく、年収・職業・家族構成・将来の展望まで書ける設計で、文章での自己紹介に重きを置く文化がある。顔写真なしで始めても、「こういう人と会いたい」という意思が明確に伝わるプロフィール文を書けば、やりとりが成立するケースが他のアプリより多かった。ただし、会うまでには「確認のために」写真交換のタイミングが来ることがほとんどなので、そこを前提に使う。
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「写真を見せてください」と言われたとき
写真を求められたとき、どう返すか。
「あとで」「考えます」は、相手を宙ぶらりんにする。印象が悪い。
実際に機能した返し方はこれだ。
「まだ顔写真を載せていないのは、ちゃんと話せると思った人にだけ見せたいからです。もう少し話してから、会う前に交換できたらと思っています」
これは作戦でも建前でもなく、本当の気持ちそのままだ。この一文に「不誠実だ」と感じる人は、そもそも価値観が合わない。「わかりました、焦らせてすみません」と返ってきた人とは、その後の会話が穏やかで密度が高くなった。
顔写真の扱い方は、相手の「人との関わり方」を映す鏡でもある。急かしてくる人と、待てる人。最初のやりとりでそれがわかるなら、むしろ顔写真を留保している方が、相手を見極める時間が生まれる。
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写真の前に、「話したい人」を探す
2026年、マッチングアプリは出会いのインフラとして完全に定着した。と同時に、「顔写真ガチャ」的な使い方に疲れた人も増えている。
外見よりも内面を先に見せたい。知り合いにバレたくない。ちゃんと話せる人だけと繋がりたい。その気持ちを持ちながらも、「写真がないと始められない」と思い込んで、ずっと登録画面で止まっている人がいるなら、最初の選択肢はwithがいいと思う。性格診断ベースのマッチングは、顔写真なしのスタートでも「相性のいい人」を引き寄せる設計になっている。顔写真をアップする前に、まず「自分がどういう人間か」を文章と性格タグで伝える場所として使える。
「選択肢の多さで探したい」「本気で真剣交際を考えている」段階なら、Pairsのコミュニティ機能と母数の厚みを使う方が現実的だ。顔写真なしのスタートでも、共通の趣味から会話が始まれば「会ってみたい」という流れは作れる。
夜22時半のファミマで、スマホを閉じたあの瞬間から1年近く経った。写真を求めてきたあの34歳への返信は、結局しなかった。でも今は、別の人と来月の予定を決めている。プロフィールに顔写真は、まだ載せていない。
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