夜11時。ダイニングの椅子に一人で残って、冷めたほうじ茶を両手で包んでいた。
夫はもう寝室に消えた。「おやすみ」も言わずに。
結婚13年目。子どもは中学1年と小学4年。持ち家の住宅ローンは残り22年。越してきたこの街も、気づけばもう9年になる。何かが壊れているわけじゃない。朝食はほぼ毎朝一緒で、夫婦のLINEはちゃんと機能していて、日曜の買い物はいつも2人で行く。
でも——最後に夫と親密な時間を過ごしたのが、いつだったか思い出せない。
1年? 2年? もっと前かもしれない。正確な日付を辿ろうとすると、記憶の中に霧がかかって、そのまま目を閉じたくなる。
「夫が悪い」と思っていた時期があった。誘われない、触れてこない、仕事疲れと言いながら毎晩スマホゲームをして先に寝る——そういう夫への、静かな怒りがあった。
でも最近、もっと怖いことに気づいた。
自分も、欲しいと思わなくなっていた。
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※この記事は医学的・一般的情報を提供するものであり、診断・治療を目的としません。症状が続く場合は医師・婦人科・かかりつけ医に相談してください。
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セックスレスとは何か——数字で見る現実

セックスレスとは、日本性科学会の定義で「特別な事情がない限り、同意のある性交渉が1ヶ月以上ない状態」を指す。
日本家族計画協会が実施した「男女の生活と意識に関する調査」によると、既婚者の約45.2%がセックスレスと回答している。40代に限ると、その割合はさらに高くなる傾向にある。「うちだけじゃない」という事実は、少し楽にはなる。でも、知りたかったのは数字ではなく——なぜ、こうなったのかだった。
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「夫が悪い」は、半分しか正しくない

セックスレスの原因として語られるのは、ほとんどが「夫側」の話だ。仕事疲れ、性欲の低下、パートナーへの興味の変化——確かに、それらは実在する。
でも、40代女性に特有の、もう一つの原因が存在する。それはあまり語られない。
エストロゲン(女性ホルモン)の低下が、性欲と体の感度を静かに変えていく。
40代に入ると卵巣機能が徐々に低下し始める。閉経前の10年間(一般的に40代〜50代前半)は「更年期移行期」と呼ばれ、エストロゲンの分泌量が不規則に変動する。日本産科婦人科学会の資料によると、エストロゲンの低下は以下の変化をもたらすとされている。
「誘われても気持ちが乗らない」「前は感じていたのに最近は感じにくい」「触れられると少し痛い気がする」——これらは「女として終わった」サインではなく、ホルモンバランスの変化に体が適応しようとしている過程だと、多くの産婦人科医が指摘する。
つまり、セックスレスの背景には夫側の問題だけでなく、自分の体の変化が絡んでいることが多い。「相手のせい」だけで語れる話ではなかった。
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「欲しいと思わなくなった」——これは病気なのか
Q. 性欲がなくなってきた気がする。40代なら仕方ないのか、それとも何かの問題があるのか?
A. 病気ではなく、ホルモン変動の自然な影響である可能性が高い。ただし、放置していいとは限らない。
性欲の低下は医学的に「性欲低下障害(HSDD: Hypoactive Sexual Desire Disorder)」として定義され、苦痛や日常生活への支障を伴う場合は婦人科での相談対象になる。40代女性のHSDD有病率は20〜40%との報告もある(Int J Impot Res. 2021)。
「欲しいと思わない」という状態が「更年期だから仕方ない」で片づけられてきた時代は終わっている。今は婦人科でホルモン値を調べ、必要であればホルモン補充療法(HRT)やセルフケアのアドバイスを受けられる。
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誘われなくなったのか、自分が避けるようになったのか
Q. 夫婦の親密な時間がなくなった。これは夫側が原因なのか、自分側なのか、どうやって区別すればいい?
A. どちらかが「原因」というより、両者の変化が積み重なってセックスレスは成立することが多い。
夫が誘わなくなったのは、もしかしたら「断られた経験」の積み重ねかもしれない。自分が誘う気にならないのは、ホルモン変化や日々の疲弊感が背景にあるかもしれない。どちらが先かより、今の自分の体の状態を知ることが先決だ。
婦人科に「最近性的な関心が薄れていて」と言うのは敷居が高いと感じる人は多い。でも、内科に「最近疲れやすい」と行くのと、本質的には変わらない。体のサインを専門家に見せるための診察だ。
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「体の乾き」という、誰にも言えなかった話
40代のセックスレスで語られにくいのが、デリケートゾーンの乾燥の問題だ。
エストロゲン低下によって腟粘膜が薄くなり、自然な潤いが減少する。これは「感じていない証拠」ではなく、粘膜の生理的変化だ。医学的にはGSM(閉経関連性器尿路症候群)と呼ばれ、乾燥・かゆみ・親密な時間の不快感が主な症状として現れる。
「痛いから避ける → 夫が察して誘わなくなる → 関係が遠のく」——この循環が、誰にも言えないまま静かに進行していることがある。
この「乾き」に対しては、フェムケア製品によるセルフケアが選択肢の一つとなる。iroha は産婦人科医監修のフェムケアアイテムを展開しており、デリケートゾーンの保湿・ケアを目的とした製品ラインがある。「まず自分の体の感覚を取り戻す」ための入り口として、医師への相談と並行して使い始める人が増えている。効果には個人差があること、また痛みや炎症が続く場合は必ず婦人科を受診することが前提だ。
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この問題を「自分の体から始まる」ものとして見ると
ここまでの要点:40代女性のセックスレスは、夫婦関係の崩壊ではなく、エストロゲン低下という生理的変化が静かに進行している結果である可能性がある。性欲の低下・デリケートゾーンの乾燥・感度の変化は40代以降の女性に広く見られる症状であり、婦人科的サポートとセルフケアを組み合わせることで状況が変わるケースがある。「夫が悪い」「自分が女として終わった」という思考の前に、まず体の現状を知ることが第一歩になる。
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エクオールという選択肢を知っているか
Q. ホルモン補充療法は副作用が怖い。もっと手軽なセルフケアはあるか?
A. エクオールを含む大豆イソフラボン系サプリが、エストロゲン様作用のサポートとして注目されている。
エクオールは大豆イソフラボンが腸内細菌によって変換される成分で、エストロゲンに似た構造を持つとされる。日本産科婦人科学会は、エクオールを含む大豆イソフラボン摂取が更年期症状の軽減をサポートする可能性があると報告している(ただし効果の程度には個人差がある)。
日本人女性の約50%はエクオールを体内で産生できない「非産生者」とされており、食事だけでは補いにくい場合がある。エクエル は大塚製薬が展開するエクオールの機能性表示食品で、「腰や膝の不快感」「肌の潤い」「ほてり・のぼせ」のサポートが届出内容に含まれる。性欲や乾燥への直接的な効果を保証するものではないが、更年期移行期のホルモンバランスをサポートする手段の一つとして、婦人科医に相談の上で取り入れている40代女性が増えている。
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婦人科への「言い方」がわからない
Q. 「夫婦の親密な時間がない」ことを婦人科医に話すのは恥ずかしい。どんな言い方をすればいい?
A. 「最近、夫との親密な時間が減っていて、ホルモン検査を受けたい」で十分伝わる。
婦人科医は、性生活の停滞を日常的に診察する専門家だ。初診で話しにくい場合は、問診票に記入して渡す方法もある。婦人科オンライン診療 のサービスを使えば、自宅から予約・診察・処方相談ができる。更年期・ホルモン・フェムケアを専門とする医師に対面なしで相談できるため、「まず話してみる」ハードルを大きく下げてくれる。夜11時のダイニングで一人で抱えてきた問題を、まず言葉にする場所として活用してほしい。
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13年目の夜に、できること
冷めたほうじ茶を飲み干して、洗い物を済ませて、寝室に向かう前に少しだけ立ち止まってほしい。
「夫が悪い」でもなく、「自分が終わった」でもなく——体が変化している時期にあるだけかもしれない。
40代の体は、静かに更年期へと移行しながら、ホルモンのバランスを再調整しようとしている。その過程で性欲が変わり、感度が変わり、夫婦間の空気が変わっていく。それはあなたの人格でも意志でもなく、生理的なプロセスだ。
まず体の現状を知ること。婦人科に行くか、婦人科オンライン診療 でオンライン相談するか、エクオールを試してみるか——順番はどれでもいい。
もし「自分の体の感覚がなくなってきた」と感じているなら、まず一度、専門家に話すことを勧める。 話したことで何かが変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。でも、誰にも言えないまま13年目の夜を重ね続けるより、ずっと早い。
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参考資料


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