午後11時47分、世田谷の1Kの床に座って、ファミマのサラダチキン(298円)を袋から取り出しながら、またPairsを開いていた。
通知が来ている。27歳、エンジニア、趣味は映画。写真は3枚。プロフィールのトップ写真は自然光の下で撮られた、清潔感のある顔写真だ。
でも指が止まった。
「どうせまた、3回目のデートで終わる」
そう思ったら、メッセージを送る気力が消えた。ストロング系の缶チューハイ(9%)の二口目を飲んで、画面を閉じた。
去年1年間で3つのアプリを試した。Pairs、with、tapple。マッチングは合計14件。でも3ヶ月後には全員と連絡が途絶えた。最後にメッセージが来なくなった夜の日付まで、スクリーンショットが残っている。
12月、職場の同期の婚約祝い飲み会。渋谷の居酒屋で、グラスを持ちながら「おめでとう」を何度も言って、ずっと笑顔を作り続けた。終電で世田谷に帰ってきて、玄関で靴を脱いだ瞬間に、なぜか泣いた。理由がわからなかった。
「私には、恋愛する自信がないんだと思う」
だから自信をつけようとした。2年4ヶ月、ずっとそうしようとしていた。それが根本的に方向を間違えていたと気づいたのは、ごく最近のことだ。
ジム代9,800円と、朝活2回と、春タイプの話
自信をつけるために、やったことを正直に書く。
ジムに入会した(月額9,800円)。週3回行く予定で、3ヶ月後には退会した。朝活コミュニティに登録した(土曜日に2回参加して、3回目は起きられなかった。週末は朝11時まで寝る習慣が2年続いている)。パーソナルカラー診断を受けた(イエベ春と言われたが、その後もファミマ近くのドラッグストアで同じファンデを買い続けている)。
書店で恋愛・自己肯定感の本を3冊買った。付箋だらけにした。「等身大の自分を愛することから始めよう」という一節に蛍光ペンを引いた。行動は、何も変わらなかった。
全部、「自信がついたら恋愛する」の準備だった。
でも自信はついていない。2026年4月、27歳の今も、午後11時47分の床に座っている。
「自信をつけてから動く」が詐欺である理由
世間の恋愛アドバイスの8割は「まず自分を好きになれ」で出来ている。
SNSでも、本でも、友人のアドバイスでも、「自己肯定感を上げれば自然と良い縁に恵まれる」という話が出てくる。2年間、これを真剣にやってきた。そしてわかった。
この主張は、因果関係が逆だ。
心理学に「行動活性化(Behavioral Activation)」という概念がある。気分が落ちているときに「気持ちが上向いてから動こう」と待つのではなく、「まず動くことで気持ちが変わる」という順番が正しいとされている。感情が行動の引き金なのではなく、行動が感情を書き換える。
恋愛の自信も、構造はまったく同じだ。
「自信がついたから恋愛できた」という人は、正確には「恋愛の場に出続けることで少しずつ自信が育っていった」のだ。自信は準備から生まれるのではなく、動いた結果として後から来る。準備を続けている限り、自信は永遠に「もう少し先」にある。
2年4ヶ月、私がやっていたのはこの罠の中でひたすら同じ場所を歩き続けることだった。
アプリ3回全滅の、本当の原因
「自信がなかったから失敗した」と思っていた。でも最近、14件のマッチングを一件ずつ振り返って気づいた。
これは戦略の問題だった。
当時のプロフィールを再現する。写真は1枚(近所のカフェで撮った、顔が半分しか映っていない横顔)。自己紹介文は134文字(「映画と料理が好きです。気さくな方からのいいねをお待ちしています。よろしくお願いします」で終わり)。趣味の欄には「映画・料理・散歩」の3単語だけ。
会えた4人に共通していたのは、相手が積極的にメッセージを展開してくれたことだった。私から積極的に質問したことは、1回もなかった。デートの場所は「どこでもいいです」で通した。終わりの気配がしてきたとき、どうすべきかわからずに黙って待った。
これを「自信がない」と呼ぶこともできる。でも「戦略がない」と呼ぶ方が正確だ。
写真1枚・横顔・134文字の自己紹介は、自己肯定感の問題ではなく情報設計の問題だ。都内IT企業のマーケ部で毎日ターゲティングとコンテンツ設計をやっている私が、自分自身のマーケティングを完全に放棄していた。これは矛盾でも笑い話でもなく、「自信がない」という感情が思考を止めていた結果だ。
Pairsのプロフィールを3時間かけて作り直した夜
動き方を変えることにした。
まずPairsに絞った。国内最大の会員数を持ち、真剣交際・結婚を前提にした層が厚い。プロフィールの設定項目が他のアプリより詳細で、職業・価値観・将来の希望まで細かく設定できる。「会う前から相手をある程度知れる」設計になっているため、初回メッセージの精度が上がりやすい。tappleは出会い重視の若い層が多く、私が今何を求めているかとズレていた。
プロフィールを3時間かけて作り直した。
写真を6枚に増やした。昼休みに同期に頼んで、会社近くの代々木公園で自然光の下で撮り直した。笑顔のもの、横顔、趣味(料理)の写真を混ぜた。自己紹介文を450文字に書き直した。「映画が好きです」ではなく「先月スクリーンで観た映画のこと、その後一人でサイゼリヤに入って余韻に浸ってた話」を具体的に書いた。
メッセージのルールを一つ作った。相手の自己紹介の中から、必ず1つ具体的なことを拾って質問する。「映画は好きですか」ではなく「プロフィールに『最近ドキュメンタリーにはまってる』って書いてましたが、特にどんな作品が好きですか」という形で。相手の言葉を使って返す、というマーケ部で毎日やっている手法を、ここでようやく使い始めた。
結果、マッチング後に実際に会えた割合が明らかに上がった。
自信がついたからではない。動き方を変えたからだ。
withで「話が合う感覚」を先に作る
Pairsと並行して、withも試した期間がある。
withの特徴は性格診断の精度の高さだ。MBTIに近い形式で分析が行われ、マッチング相手との相性スコアが数値で表示される。私はINFJ型という診断結果で、相性が高いとされる相手との最初のやり取りは、今まで経験したことがないくらいスムーズだった。「なんかこの人と話しやすい」という感覚が、テキストベースの会話から生まれた。
「話が合う」という体感が先にあると、不思議と「自信がない」を考える時間が減った。自信が先にあって話せたのではなく、話せたことで自信が後からついてきた。これが「行動が先で感情が後」という話の、私にとっての実感値だった。
真剣交際を前提にするならPairsの母数の多さに強みがあり、価値観の一致をまず確認したいならwithの診断精度に優位性がある。どちらも「自信がついてから登録する」ためのツールではなく、「登録することで自信を育てていく」ためのプラットフォームとして使える。
午後11時47分の床から、次の一手へ
2026年、都内IT企業のマーケ部で働く27歳として、去年と今年で変わったことがある。
同期の婚約ラッシュは続いている。グループLINEの話題が少しずつ変わっていく。会社の先輩から「最近どう?」と聞かれる回数が増えた。でも今は、去年の12月の飲み会の帰り道みたいに泣かない。
変わったのは自信ではなく、「動き方」だ。
恋愛に自信がないのは、欠陥ではない。戦略が足りていないか、経験値が足りていないか、そのどちらかだ。どちらも行動で補える。「自信がついたら動こう」という先送りは、その自信を永遠に遅らせ続けるだけだ。
もし今「恋愛に自信がなくて一歩が踏み出せない」と感じているなら、自己肯定感を上げるセミナーに3万円払う前に、Pairsのプロフィールを1時間かけて作り直してほしい。写真は6枚、自己紹介は400字以上、趣味の欄には「好き」という単語ではなく具体的なエピソードを一つ入れる。それだけで、届くメッセージの質が変わる。
あるいは、まず相性から入りたいならwithの性格診断を受けてから始める手もある。「話が合う」という体験が最初にあると、動くためのハードルが下がる。
自信は動いた後でしか、生まれない。
2026年の今年、動くかどうかを決めるのは、あなただけだ。
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