夜11時のファミマ袋と、12月の飲み会
帰りの小田急線、世田谷代田を過ぎたあたりで、スマホを伏せる習慣がいつの間にかついた。
降車して改札を出て、向かいのファミマに寄る。棚の前で2分ほど立ちつくして、結局サラダチキン(プレーン、183円)と糖質オフの缶チューハイ(198円)を手に取る。月・水・金の帰り道は、ここ半年ほぼこの流れだ。IT企業のマーケ部で働いて22時前後に帰宅して、家賃9万8千円の1Kマンションのキッチンに立つ気力は残っていない。
12月の初旬、職場の同期が婚約した。
全社Slackの「おめでとう!」スタンプを一番最初に押したのは私だった。夜の飲み会でも席が隣になって、笑顔で「二人の馴れ初めは?」と聞いた。悔しいとか、羨ましいとか、そういう感情だったらまだわかりやすかった。ただ何かが急にずれた感じがして、自分が何に向かって走っているのかわからなくなった。
帰りの電車で涙が出た理由は、今でも正確にはわからない。
部屋に帰って、電気もつけずにベッドに転がった。翌朝は11時まで起き上がれなかった。前の晩に深夜1時まで気を紛らわせようとNetflixを流していたせいもある。
そのとき私は、マッチングアプリを3つ試して、全部やめていた。最後にアプリを消したのは、1年半前だった。
tapple・Omiai・Pairs、3連敗の全記録
最初はtappleだった。24歳の秋に入れた。趣味でマッチングできるコンセプトが良かった。「カフェ巡り」タグで相手を探して、何人かと会った。でも6ヶ月でやめた。
趣味が同じでも、話が続かなかった。「カフェ巡り」は趣味というより習慣で、その人の休日の過ごし方や仕事への姿勢とは全然別の話だった。3人目の食事のとき、お茶を飲み終えたタイミングでいきなり手を繋ごうとされた。帰りの電車でブロックして、翌日アプリを消した。
25歳でOmiaiに入った。「真剣度が高い」という評判を信じた。確かにプロフィールはきちんとした人が多かった。年収欄も学歴欄も埋まっていて、写真も丁寧に選んでいる人が多かった。ただ、私がいいねを送っても返ってくる確率が低かった。顔写真を3回変えた。自己紹介文を4回書き直した。半年で燃え尽きた。
26歳でPairsに移った。日本最大規模という言葉を信じた。マッチング数は確かに増えた。でも量が多いぶん「この人でいいかな」という感覚で動いてしまった。1時間半メッセージが続いた相手と実際に会って、30分で「この人じゃない」とわかった。駅で「楽しかったです!」と笑顔でお礼を言って、帰りの電車で虚無になった。3ヶ月分の月額料金を払って、アプリを消した。
3つのアプリで費やした時間と精神的体力は、振り返ると結構なものだった。それでも何も残らなかった。
「また消耗するくらいなら、しない方がいい」という思考回路
1年半、マッチングアプリを入れなかった。
意識的にやめたわけじゃない。電車の中で広告を見ても、「また燃え尽きるだけか」という感覚が先に来て、指が動かなかった。
仕事は相変わらず忙しかった。平日は22時ごろに帰って、ファミマのサラダチキンと缶チューハイで夕食を済ませて、Netflixを流しながら寝落ちする。週末は11時まで寝て、昼からジムに行くか行かないかどちらかだった。コーヒーを一人で飲みながら、ひとりごとを言う回数が増えた気がする。
その生活の中で、彼氏いない歴が2年4ヶ月になった。
12月の飲み会の翌週、なぜかその「2年4ヶ月」という数字が妙に引っかかった。アプリをやめた期間と、ほぼ重なっていた。やめたことで何かが解消されたわけじゃなく、ただ時間だけが経っていた。
「アプリが嫌なんじゃなくて、あの使い方が嫌だったのかもしれない」
初めてそう思った。
withを選んだ理由は、性格診断だった
1月15日の夜、Netflixを開く前にwithをインストールした。
withには「性格診断」がある。16タイプの性格を分析して、自分の思考傾向と相性が出やすいタイプを把握できる機能だ。相手のプロフィールにも診断結果が表示されるから、スワイプする前に「この人はどういう判断軸で動く人か」がある程度わかる。
これが、私には刺さった。
tappleで全滅したのは、「趣味が同じ=相性がいい」という前提が間違っていたから。Pairsで虚無になったのは、スペックと写真で選んで、会ってから「なんか違う」を発見したから。どちらも「価値観や思考の傾向が合うか」を確認する前に、席に向かい合って座っていた。
withの診断は完璧じゃない。でも「なんとなくいいね」じゃなく「この人の思考の傾向に興味がある」という入り口でアクションできる。最初のメッセージの書き方が自然と変わった。「趣味は何ですか?」じゃなく、「診断結果見て、確かにそういうタイプだと思う部分があって」という入り口になる。相手も同じ情報を持って話しているから、最初の数往復のやりとりの密度が、tappleのそれとは別物だった。
会員数はPairsほど多くない。でも今の私には、母数より接点の質の方が重要だった。量で全滅した経験があるから、余計にそう思う。
Pairsという選択肢を、3連敗の後で正直に評価する
withを選んだからといって、Pairsを否定したいわけじゃない。それは違うと思っている。
Pairsは2026年現在も、国内最大規模の会員数を誇るアプリだ。東京23区内で同世代の相手を探すなら、選択肢の数という意味では圧倒的だ。初めてマッチングアプリを使う人や、まず多くの人に会って「感覚で選びたい」という人には、今でも有力な選択肢だと思う。
ただし、私が26歳で感じた「惰性になる」問題は、Pairsの構造じゃなく私の使い方の問題だった部分が大きい。
プロフィール写真の質、自己紹介文の具体性、いいねを送る基準。この3つを整えてから入れば、Pairsの母数は確実に強みになる。「趣味はカフェ巡り・映画鑑賞です」より「平日夜はNetflixより読書が好き。週末は朝早く起きられる日に一人で朝市に行くのが好き」と書いた方が、刺さる相手に刺さる。自分という人間の輪郭が出る文章の方が、埋もれない。
Pairsで消耗したのは、私の準備が足りなかった。今から入るなら、写真を撮り直して、自己紹介を3回書き直してから入れる。そのくらいの準備をして使うべきアプリだと、今は思っている。
Omiaiに「真剣さ」を預けるという選択
Omiaiは、真剣交際・結婚を前提にした出会いを探している人に、2026年現在も合理的な選択肢だ。
プロフィールに年収・職業・学歴を記載する文化があって、スペックが言語化されている。ライトな出会いを求める層が少ない設計になっている。それが嫌な人には向かないが、真剣な場所に自分の真剣さを持ち込みたい人には、むしろ誠実な環境だと言える。
私が25歳でやめた理由は、「真剣すぎてプレッシャーに感じた」からだったかもしれない。でも27歳で、彼氏いない歴2年4ヶ月になった今、その「真剣さ」の意味は変わってくる。
本当は真剣な出会いを求めているのに、ライトな場所に自分を置いていた矛盾がある。Omiaiはその矛盾がない場所だ。スペックで判断される側面はあるが、同時に自分もスペックで相手を判断できる。疲弊した後から見ると、その透明性はむしろ楽だと感じる。
今夜、withをもう一度開く
3つのアプリで私が学んだのは、「アプリの良し悪し」じゃなかった。
自分が何を求めていて、どんな状態で使うか。それが全部を決めていた。
サラダチキンをつまみながら、深夜1時に惰性でスワイプしても誰にも会えない。それは身をもって知っている。でも「接点の質から入る」「自分の傾向と相手の傾向を言語化できる仕組みを使う」「真剣な場所に自分の真剣さを持ち込む」という前提が揃えば、アプリは意味を持つ。
今、同じ場所で立ち止まっているなら。
性格や相性から入りたいなら、withの診断機能を試す価値がある。母数と選択肢の多さを優先するなら、プロフィールを整えてからPairsに入る。真剣な場所に自分を置きたいなら、Omiaiが今でも合理的な選択だ。
どれが正解かは、自分が何を求めているかによって変わる。でも「自分が求めているもの」を先に決めると、選ぶべきアプリは自然に絞られてくる。3連敗してやっとわかったことだけど、それはたぶん、アプリよりずっと前に決めておくべきことだった。
今夜、私はNetflixを開く前に、withをもう一度開く。12月の飲み会で笑えなかった自分のことを、少し許してあげてから。
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