世田谷区の1Kアパート、深夜1時17分。
帰り道のファミマで買ったサラダチキン(198円)と缶チューハイ(178円)のビニール袋を、玄関の鍵を開けたまま床に置いた。スマホの通知は0件だった。
マッチングアプリのアイコンを長押しする。「削除しますか?」。削除する。
3回目だった。Pairs、tapple、with。去年の1年間でこの3つを順番に試して、3つとも消した。課金した合計金額は4万2000円を超えていた。デートに漕ぎ着けたのは5回。でも「もう一度会いたい」と思えた相手は0人だった。
IT企業のマーケ部に勤めていて、世田谷から渋谷まで東急田園都市線で22分。平日の帰宅は21時を超えることが多く、自炊する気力は残っていない。週末は朝11時まで寝て、深夜1時過ぎにNetflixを消す。2年4ヶ月、彼氏がいない。去年12月、職場の同期が婚約した飲み会で、自分の笑顔が本物かどうかわからなかった。
翌朝、東急田園都市線の中でまた検索していた。「マッチングアプリ 女性 20代 おすすめ 比較 2026」。指が止まって、気づいたら渋谷を2駅過ぎていた。
ここで一度、ちゃんと言いたいことがある。
その比較記事は、あなたのために書かれていない。
「おすすめランキング」という名の広告
IT企業のマーケ部に勤めているなら、感覚的にわかるかもしれない。マッチングアプリの比較記事の多くは、成果報酬型広告(アフィリエイト)で収益を上げている。
仕組みはシンプルだ。サイト訪問者がリンクをクリックしてアプリに登録すると、サイト運営者に報酬が入る。だからランキング上位に来るアプリは、必ずしも「読者に最も合うアプリ」ではなく、「そのサイトが広告契約を結んでいるアプリ」になりやすい。
「当サイト独自調査によるランキング1位」という表記を見たとき、マーケ部の人間として何を想像するか。そういうことだ。
悪意があるとは思わない。でも、「自分に合うアプリを正直に教えてほしい」という読者のニーズと、「登録数を最大化したいサイト運営者のニーズ」は、方向性がずれることがある。これは構造的な問題で、個人の誠実さの問題ではない。
だから今日は、アフィリエイトの都合ではなく、4万2000円を溶かして5回デートして「また会いたい人」が0人だった経験から、正直に書く。
3つ試して全滅した、本当の理由
最初のPairsに登録したのは2024年の春だった。
「会員数No.1」は本当だと思う。東京都内にいれば、1日に20〜30件のいいねが来ることもある。でも、私がPairsを使い始めた最初の1ヶ月、いいねは合計で18件だった。理由はわかっている。写真1枚(スタバで撮ったやつ)、自己紹介が4行、プロフィール項目の半分以上が空欄。それで「なんで出会えないんだろう」と思っていた。
会員数が多いということは、競合も多いということだ。選ばれる側でもある。Pairsは母数の大きさが武器だが、その分「ちゃんとしたプロフィールを持つ人」しかマッチしない仕組みになっている。雑に放り込んで勝手に結果が出るアプリではない。
tappleは次に試した。UIがわかりやすく、気軽に使える。デートには2回漕ぎ着けた。でも「この人と将来の話をしてみたい」という感覚には一度もならなかった。アプリの空気がカジュアルな分、繋がり方もカジュアルになりやすかった。それが悪いわけではないが、私が求めていたものとはずれていた。
withは3つ目に試した。心理テストや性格診断でマッチングするコンセプトは他と違って面白かった。Pairsより会員数は少ないが、「話が合う人を探したい」という志向のユーザーが集まっている印象があった。ただ、このときも私はプロフィールをまともに作っていなかった。診断結果だけ埋めて、あとは放置。3ヶ月で削除した。
3つ削除した後で、初めてちゃんと考えた。
全滅の原因は、アプリではなかった。「自分がどういう人に会いたいか」を言語化していなかったこと、そしてプロフィールをまともに作っていなかったこと。この2点に尽きる。
スーパーに入って、棚を一切見ずにレジに直行するようなものだ。食材を選んでいなければ、何も作れない。
Pairs:東京で選択肢を最大化したいなら
2026年現在、東京でマッチングアプリを使うなら、Pairsは外せない。
会員数の多さが確率に直結する。これはマーケ的な発想だが、母数が大きければ自分に合う人が含まれる可能性は上がる。Pairsが提供する「コミュニティ機能」——趣味・価値観・ライフスタイルで集まる小グループ——を活用することで、顔写真だけで選ぶより「共通の話題がある人」と繋がりやすくなる。
東京でアウトドア好き、読書好き、映画好き、料理好き、どんな趣向でもPairsのコミュニティには同じ興味を持つ層がいる可能性が高い。これを使わずにPairsを「全滅した」と言うのは、フロアを何も見ずに帰るのと同じだ。
ただし、繰り返しになるが、プロフィールを作り込まないと何も始まらない。写真は自然光の屋外で撮ったもの3枚以上、自己紹介は趣味の名前だけでなく「なぜそれが好きなのか」を1行書く、回答できる項目は全部埋める。これをやった上でPairsを使えば、去年の私とは全然違う経験になると思う。
月額はスタンダードプランで約3,400円(男性課金制)。女性は基本無料で使える。
with:「話が合う人を探したい」なら
withが他のアプリと根本的に違うのは、MBTIをベースにした性格診断と心理テストでマッチングを促すアプローチだ。
「顔写真を先に見ない」という選択肢がある。これは、「見た目で選んでいたらいつも同じ失敗をしている」という感覚がある人に効く。自分でも気づいていない「好みの型」に縛られているとき、別の軸で人を見る練習になる。
Pairsより会員数は少ない。でも「性格の相性を重視したい」というユーザーが集まっている分、話が噛み合いやすい傾向がある。初回メッセージも、お互いの診断結果から入れるので「なんて話しかければいいか分からない」が起きにくい。共通の診断結果という共通言語があるのは、実際に会話を始めやすい。
マッチングアプリを複数試して「なんか違う」を繰り返している人、「条件よりも相性を重視したい」という人には、withが合う可能性が高い。月額は約3,500円前後(プランによって変動)。
Omiai:「婚活として、ちゃんとやる」と決めたなら
Omiai は名前通り、婚活色が強いアプリだ。
プロフィールに年収・職業・最終学歴・結婚への意思・子どもへの考えを記入する欄がある。最初に見たとき「情報量が多くて重い」と感じた。でも今は、この「重さ」が機能していると思う。書くべき項目が多い分、真剣に相手を探している人が集まりやすい。
Pairsが「まず出会いの数を増やす」ためのアプリだとすると、Omiai は「真剣度の高い相手と質の高い出会いをする」ためのアプリに近い。
同時並行で使うなら、Pairsで広く当たってOmiaiで絞るという使い方が合理的だ。月額は約3,600円程度。「まだ遊びたい気持ちもある」段階では少し重いかもしれないが、「次で決めたい気持ちが少しある」という段階なら、Pairsと並行して使う価値がある。
27歳の今、「まだ早い」と思うなら使わなくていい。でも「早くはないかも」とどこかで思っているなら、視野に入れてほしい。
アプリを変える前に、まずこれをやる
3つ全滅して学んだ一番の教訓を書く。
アプリを変える前に、プロフィールを変えること。これをやらずにアプリだけ変えても、結果は変わらない。
写真の選び方。 「盛れる1枚」より「自然な表情の3枚」が強い。室内・暗い・加工過多の写真より、屋外・自然光・笑顔が伝わるもの。趣味が伝わる写真(本を持っている、カフェにいる、スポーツしているなど)が1枚あると、相手に会話の入口を渡せる。
自己紹介の書き方。 「よろしくお願いします」で終わるテキストは、書いていないのとほぼ同じだ。「なぜそのアプリを使っているか」「どういう相手と話したいか」を1〜2行書くだけで、マッチング後の会話の質が変わる。趣味の名前より「なぜそれが好きなのか」を書く方が人格が伝わる。
最初のメッセージ。 「こんにちは!プロフィール拝見しました」は大量に届く。相手のプロフィールの具体的な一点(「◯◯が好きなんですね、先週自分も行きました」など)に触れたメッセージは、返信率が体感で変わる。これはどのアプリでも共通する。
アプリを変える前に、自分の使い方を変える。この順番が正しい。
ファミマの袋の夜に、今から返事をするとしたら
深夜1時17分、サラダチキンの袋を床に置いたあの夜の自分に、今なら何を言うか。
「向いてない」じゃなくて、「使い方が雑だっただけ」だと思う。
マッチングアプリは道具だ。良い包丁を買っても使い方を知らなければ何も切れない。逆に言えば、使い方を変えれば結果も変わる。4万2000円は授業料だったと、今は思うことにしている。
2026年、東京で20代のうちに真剣に相手を探したいなら:
選択肢を最大化して確率を上げたいなら Pairs(会員数・コミュニティ機能の充実)。性格の相性を重視して話が合う人と繋がりたいなら with(診断ベースのマッチング)。婚活として本気でやると決めたなら Omiai(真剣度の高い層が集まる)。
どれか1つに決めて、プロフィールをちゃんと作って、3ヶ月続ける。
深夜1時にアプリを削除する夜は、もう要らない。
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