電気を消した瞬間に、来る
夜11時34分。大阪本町のワンルーム、家賃7.2万円の部屋。
1Kのシングルベッドに横になって、枕もとのスイッチを押す。電気が消える。
それと同時に、涙が出る。
今日あった嫌なこと? 特にない。誰かと喧嘩した? していない。悲しいこと? ……思い当たらない。なのに、涙が出る。毎晩、3分だけ。今年の2月から、ずっとそうだ。
広告代理店に入って2年目。大阪本町のオフィスは、いつも騒がしい。チームに3人、頼れる先輩もいる。ランチはたいてい誰かと食べる。「孤独」という言葉からは遠い毎日のはずだ。なのに、夜11時になると泣けてくる。
理由がないのが、いちばんしんどい
泣くなら、理由があってほしい。
「あの一言が傷ついた」なら対処できる。「仕事でミスした」なら反省すれば終わる。でも、理由がない。原因が特定できない。だから対処のしようがなくて、毎晩同じ時間に同じことが繰り返される。
これが孤独感のもっとも残酷なところだ——理由の見当たらない空洞が、消灯と同時にやってくる。
友達がいないから孤独なのではない。孤立しているから孤独なのでもない。表面上は普通に動いている。でも夜になると、何かが足りない感覚がじわじわと大きくなって、気づいたら涙になっている。
2月、あの同期の席が空になった日
今年の2月の中旬、同期が1人辞めた。
引き継ぎで忙しかった1週間が終わって、気づいたら彼女の席が空になっていた。机の上に何も置かれていない状態って、こんなに広く見えるんだと思った。
その日の夜から、3分の涙が始まった。
最初は「彼女が辞めたから」だと思っていた。1ヶ月後も続いていたから、それだけじゃないと気づいた。転職サイトを開いて、閉じた。また開いて、また閉じた。「今じゃない気がする」と思いながら、「じゃあいつ?」の答えが出なかった。
有給が残り8日ある。でも使い方が思いつかない。旅行に行く気力もない。友達と会う約束を入れるエネルギーも、どこかに置いてきてしまった気がする。かといって部屋にいるだけだと空洞が広がる気がして、週末は本町から梅田まで1時間ほどぶらぶら歩く。ウィンドウショッピングをして、何も買わずに帰る。
家賃7.2万円の部屋に戻って、電気を消す。涙が出る。
本町から梅田を歩く、週末の正体
誰かと約束しているわけじゃない。目的があるわけでもない。でも部屋にいると、静けさが重くなってくるから外に出る。
梅田の商業施設はいつも人が多い。カップルがいる。友達グループがいる。家族がいる。自分は一人で、スタバのアイスラテを1000円弱払って飲んで、それでも何も変わらないまま本町に帰ってくる。
SNSのストーリーには「週末の梅田」を上げる。カフェのカップの写真。加工した街の写真。「充実してそう」に見える。実態は買い物もせず1時間歩いて、何も変わらずに帰ってきただけだ。
「これって孤独なのかな」と思い始めたのは、3月に入ってからだ。
「孤独感」という言葉が、ずっとしっくりこなかった
正直、自分が「孤独」だとはずっと思えなかった。
孤独って、友達がいない人がなるものだと思っていた。休日に誰とも話さない人、一人でご飯を食べる人。でも違った。
孤独感は、人に囲まれていてもやってくる。チームがいても、ランチを一緒に食べても、夜になると消えない。むしろ「賑やかだった昼間」と「静かな夜」のギャップで、余計に輪郭がくっきりする。
20代の孤独感は「友達がいない」じゃない。「ちゃんとつながれている気がしない」だ。
表面の会話と、内側の自分の間に、どうしようもない距離がある。同期と笑いながら話していても、「この話、本当にしたいことじゃないな」と思っている自分がいる。家族に電話して「元気だよ」と言いながら、3分後に泣く準備をしている自分がいる。
その距離感が、毎晩の3分になって出てくる。
生理前の1週間、世界が変わる
さらに厄介なのが、生理前の1週間だ。
この時期になると、3分が15分になる。涙じゃなくて、嗚咽に近いものが出るときもある。職場で何気ない一言を言われただけで、トイレに駆け込む。有給の消え方が早い。
婦人科に行こうかと思って、予約画面を開いて、「なんて言えばいいかわからない」と閉じた。「生理前になると泣けてきます」と言って、変な人だと思われないか。でも毎月消える有給を放置するわけにもいかない。
PMSという言葉は知っている。でも自分がそれだとは、なんとなく認めたくなかった。「弱い人がなるもの」というイメージが邪魔をしていた。
違う。PMSは、ホルモンバランスの問題だ。根性論でどうにかなるものじゃない。「気持ちを強く持つ」で有給は戻らない。
夜の3分は、消そうとしなくていい
ここで少し、視点を変えたい。
夜に泣けてくるのは、弱さじゃない。
毎日、本町のオフィスで8時間、「ちゃんとした社会人2年目」をやっている。それは本物だ。でも人間の感情は、そんなに都合よく制御できない。昼間に封じ込めたものが、電気を消した瞬間に噴き出してくるだけだ。
泣けているのは、まだ感情が機能している証拠だ。
問題は「泣くこと」じゃない。「泣く理由がわからないまま、毎晩繰り返して、その先に何もないこと」だ。理由がわからないから対処できない。対処できないから次の夜も同じことが起きる。このループが、本当の消耗だ。
夜の空洞に、言葉を渡す方法
孤独感の正体のひとつは、「言語化されていない感情の蓄積」だ。
日中に積み上がった「言えなかった本音」が行き場を失って、夜の3分になる。だから必要なのは「吐き出せる場所」だ——友達でも家族でもない、判断せず、ジャッジせず、ただ話を聞いて整理を手伝ってくれる誰か。
オンラインカウンセリングが、意外な出口になることがある。
「カウンセリング=重い症状がある人が行くもの」というイメージは古い。2026年時点では、スマホのアプリから予約して、ビデオ通話でカウンセラーと話すだけのサービスが複数ある。月に1〜2回、1回50分程度。「ただ話せる場所」として使う人が増えている。
Unlaceやcotreeのようなオンライン型は、本町のワンルームから電気を消す前に話せる。対面カウンセリングと違って「わざわざクリニックに行く」という心理的ハードルがなく、予約から当日まで外に出ない。これが最大の利点だ。
感情の言語化が進むと、「なぜ毎晩泣くのか」の輪郭が少しずつ見えてくる。それだけで、夜の空洞の質が変わる。「理由のわからない涙」が「理由のある疲弊」に変わった瞬間、対処のしようが生まれる。
PMSに向き合うなら、早いほうがいい
毎月消えていく有給の話に戻る。
PMSによる情緒不安定は、ホルモンバランスの問題だから、生活習慣とサプリで改善できる部分がある。特に注目されているのが、月経前の精神症状に関与するビタミンB6、マグネシウム、チェストツリーエキスを含むPMSサプリだ。「生理前1週間だけ飲む」という使い方もできる。
大げさな変化を期待しすぎる必要はない。でも「あの1週間の振れ幅が少し小さくなった」だけで、有給の消え方はずいぶん変わる。婦人科に行く前に、まず試せる選択肢として現実的だ。
夜の3分とPMSの大波が重なっているなら、どちらか一方だけを対処しても不十分だ。感情の言語化と、ホルモン周期への対策を、同時に動かすほうがいい。
本町のワンルームで、今夜できること
夜の孤独感を「完全に消す」必要はない。
でも毎晩3分だけ理由もわからず泣いて、その先に何もないまま朝を迎え続けるのは、じわじわとした消耗だ。2月から続いているなら、それはもう「たまたま今日だけ」じゃない。積み重なったサインだ。
一つだけ、今夜から試してほしいことがある。
電気を消す前に、スマホのメモアプリを開いて3行だけ書く。「今日、何が嫌だったか」じゃなくて、「今日、何を言えなかったか」を書く。それだけでいい。言語化の習慣が1週間積み上がってきたら、オンラインカウンセリングに予約を入れる一歩が、それほど遠くなくなる。
転職サイトを開いては閉じるより、先に「なぜ開きたいのか」を言葉にする。有給を使うなら、感情の整理に使う時間を作る。
もし毎月の生理前に感情の波が大きいなら、PMSサプリを1クール試すことも、選択肢として持っておく価値がある。婦人科に行くほどじゃないと感じていても、「毎月有給が消える」ほどの影響が出ているなら、もうそれは対処が必要なレベルだ。
言葉になった感情は、少し軽くなる。理由のわからない涙は、理由がわかった瞬間から、少しだけ扱いやすくなる。夜の3分は、消えなくていい。ただ、居場所を与えてほしい。
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