2月の火曜日、午後2時15分。大阪市本町のオフィスビル12階、西側トイレの一番奥の個室。ペーパーホルダーの上にスマホを置いて、目を閉じた。
さっきのミーティングで、クライアントへの提案資料を修正するよう言われた。それだけ。それだけなのに、「わかりました」と答えながら涙がせり上がってきて、会議室を出てすぐここへ逃げ込んだ。泣く理由は本当に何もない。上司は普通の人だし、仕事も別に嫌いじゃない。2月に同期の美里が辞めて仕事量は増えているけど、それだけだ。それ以外に、特に何もない。
手帳を開くと、生理予定日に赤いシールが貼ってある。あと6日。
「また、この時期か」
今年に入ってから毎月、この7日間だけわたしは別人みたいになる。有給残日数は今月3日になった。入社2年目で付与された12日が、生理前の不調だけでもう9日消えている。
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※この記事は医学的・一般的情報を提供するものであり、診断・治療を目的としません。症状が続く場合は医師・婦人科・かかりつけ医に相談してください。
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PMS(月経前症候群)とは、排卵後から月経開始の3〜10日前に繰り返し現れる身体的・精神的症状の総称。月経が始まると症状が軽減または消失するのが診断上の特徴(日本産科婦人科学会「月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD)の診療ガイドライン」より)。
この涙は「弱さ」じゃなく、脳内の化学反応だった

生理前の7日間、崩れる理由は意志の弱さじゃない。ホルモンのせいだ。
排卵後、プロゲステロン(黄体ホルモン)が急上昇する。このプロゲステロンは脳内で「アロプレグナノロン」という物質に変換され、GABA神経受容体に作用する。本来はリラックスに働くはずなのに、PMSの女性の場合この物質への感受性が乱れ、逆に不安・抑うつ・過敏性を引き起こすことがある。
さらに月経前はセロトニン(幸福感に関わる神経伝達物質)の産生が低下することも知られている。つまり「何もないのに泣きたくなる」「些細なことで傷つく」は、脳内のセロトニンとGABAのバランスが崩れた状態から起きている現象であり、性格や精神的な弱さとは無関係だ。
有給が静かに消えていく

わたしの有給残日数が3日になった経緯を振り返ると、全部この時期に集中していた。朝6時50分に梅田行きの地下鉄に乗れなかった日。本町の駅ホームで立ち止まって動けなかった日。午後3時に上司にLINEを打って「今日は体調不良で早退します」と送った日。どれも生理予定日の7日前から2日前の間だった。
日本産科婦人科学会の調査によると、月経関連症状によって仕事のパフォーマンスが低下する「プレゼンティーイズム」(出勤しているが業務効率が落ちている状態)を経験したことがある就労女性は、調査対象の約7割にのぼると報告されている。つまり本町の12階トイレで泣いていたのは、異常なことではない。ただ、放置していいことでもない。
「毎月泣くのは、やっぱりメンタルが弱いから?」
結論:違います。PMSは医学的に認定された身体疾患の範疇です。
「また泣いてる、情けない」と何度も思った。でも日本産科婦人科学会のガイドラインでは、PMSは「月経周期に関連した再現性のある身体的・精神的症状」として定義されており、「気のせい」や「根性論」で解決できる問題とは明確に区別されている。PMDDと呼ばれる重症型になると、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が保険適用で処方されるほど、医学的に実体のある疾患だ。「弱いから泣く」ではなく「ホルモン変動が脳に影響している」と認識を切り替えるだけで、自分を責めるエネルギーを対処に回せるようになる。
「婦人科に行くべき? 受診の目安は?」
結論:月経前に2サイクル以上、仕事・生活に支障が出ているなら受診を検討する価値があります。
婦人科のハードルは高く感じる。「生理前に泣くだけで病院?」と思うかもしれない。でも日本産科婦人科学会のPMSガイドラインでは、「2周期以上にわたって月経前に繰り返し出現し、社会生活や職業機能に支障をきたす症状」を診断基準の一つとしている。本町の12階で泣き続けているのは、まさにこの「社会生活への支障」に当たる。受診窓口は婦人科(産婦人科)のほか、オンライン婦人科診療でも対応可能なケースが増えている。通院時間ゼロで相談できるのは、平日夜にワンルームで使えるという意味で現実的だ。
「薬じゃなく、自分でできることはある?」
結論:あります。生活習慣の調整、周期の記録、サプリメントの3軸が有効とされています(効果には個人差があります)。
① 生理周期のトラッキング:まず自分のPMSゾーンを把握することが最初の一歩になる。「あと何日で崩れる時期に入るか」を事前に知るだけで、仕事の予定を少し余裕のあるものに調整できる。これは根本治療ではないが、「崩れる7日間」を「準備する7日間」に変える最も手軽な方法だ。
② カルシウム・マグネシウム摂取:米国で実施されたランダム化比較試験(Thys-Jacobs S et al., *Am J Obstet Gynecol.* 1998)では、カルシウムの定期的な摂取がPMS症状の軽減に関与したとする報告がある。食事だけでは不足しがちな場合、サプリメントの活用も選択肢の一つとされている。
③ 有酸素運動:ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動は、セロトニン産生をサポートするとされている。ただし生理前の疲労感が強い時期に無理をする必要はない。本町から心斎橋まで1駅分歩くだけでも、何もしないよりは違う。
ここで一度、整理しておく
生理前のメンタル不調(PMS)は、ホルモン変動が引き起こす脳内神経伝達物質のアンバランスから生まれる。意志の問題ではない。放置すると有給は減り、仕事のパフォーマンスは落ち、人間関係にも波及する。対処の入り口は「記録→可視化→生活習慣の調整→必要なら受診」の順番が現実的で続けやすい。
「この時期だけ周りに当たってしまう。どうしたらいい?」
結論:PMSによる感情過敏は「事前宣言」が関係を守ります。
「また先週のわたし、最悪だった」と毎月後悔するなら、逆転の発想が必要だ。PMSの時期が近づいたら、信頼できる人に「来週しんどい時期かもしれない」と事前に言っておく。これは弱音ではなく、関係を守るための情報提供だ。職場の信頼できる先輩に「この時期はレスポンスが遅れることがある」と伝えるだけでも、心理的な負荷は大きく変わる。周期を記録しておけば「あと4日でホルモンが落ち着く」という見通しを自分で持てるようになり、感情の嵐の中にいる自分を少し客観視できる。
「PMSと診断されたら薬を飲み続けないといけない?」
結論:治療の選択肢は多様で、生活習慣改善から始めることも十分な医療的選択肢です。
婦人科でPMSと診断されても、すぐに薬一択というわけではない。軽〜中程度のPMSなら、生活習慣の調整・漢方・サプリメントから始めることが多い。重症型(PMDD)に限り、SSRIが処方されることがある。選択肢を知った上で医師と相談するのが最善で、受診自体がゴールではなく、自分に合った対処を見つけるプロセスだ。
今夜、本町のワンルームでできること
12階のトイレで泣いていたあの午後2時のわたしに言いたいことがある。「これはあなたのせいじゃない。でも、記録だけは始めて」と。
まず試してほしいのは、ルナルナでの生理周期トラッキングだ。国内最大規模の女性向け健康管理アプリで、月経周期・基礎体温・体調メモをひとつにまとめられる。 「あと何日でPMSゾーンに入るか」が事前にわかるだけで、仕事の予定を調整できるようになり、「気づいたら崩れていた」から「来週しんどいかもと思っていた」に変わる。これだけで有給の使い方が変わる可能性がある。
次に、カルシウム・マグネシウム・ビタミンB6を含むPMSサポートのサプリを検討してみる価値がある。PMSサプリを選ぶ際は、成分表示が明示されていて、婦人科医や管理栄養士が監修に関わっているものを基準にするといい。サプリメントは医薬品ではなく食品であり、効果には個人差があるが、生活習慣の底上げとして継続しやすい選択肢だ。
そして、もしこの記事を読んでいる今が「また崩れている7日間の中」なら、オンラインカウンセリングも視野に入れてほしい。毎月の感情的な波を「また来た」と流すだけでなく、認知行動療法的なアプローチで根本から対処する方法がある。通院不要、予約もアプリで完結、深夜0時にワンルームからテキストで相談できるサービスは2026年現在いくつも存在する。
もし2サイクル以上、仕事や生活に支障が出ているなら、婦人科またはオンライン診療への相談を検討する価値がある。 行動はすべて今月からじゃなくていい。でも、アプリを入れて次の周期を記録し始めるだけなら、今夜できる。有給がなくなる前に。
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参照・引用